相続関係は、思いのほか複雑になることがあります。

親族の死亡による各種届出や葬儀などは、誰か近しい者が費用を立て替えて行うことが多いでしょう。

ただしその費用が確実に返ってくる保証はありません。

普段あまり付き合いのない親戚との話し合い

亡くなった方が遺言書をのこしてくれた場合、または死因贈与契約または信託契約などを生前に締結していた場合は、当事者は遺産分割協議を行うことなく対象財産を承継することができます。

しかしそれ以外の場合、つまり亡くなった方が遺産承継の対策を何もしていなかった場合は、相続人全員で遺産分割協議を行わなければなりません。

相続人全員が同居の家族であれば、スムーズに話が進む可能性が高いでしょう。

では兄弟姉妹が相続人となる場合はいかがでしょう。そう簡単にはいかないかもしれません。

また兄弟姉妹もすでに亡くなり、その子たちが相続人となる場合(すなわちいとこ同士)の遺産分割協議はより難しくなります。

普段あまり交流のない親族との話し合いは、気が進まない方も多いでしょう。

特に財産の分け方を話し合うとなればなおさらです。

初動が大事

亡くなった方の預貯金は、たとえ法定相続分のみであったとしても、個々の相続人に支払われることはありません(平成28年12月19日最高裁大法廷決定)。

何とか相続人全員にハンコを押してもらうほかないのです。

そのために何より重要なのは、各相続人への最初の連絡です。

相手にとっては突然の知らせであるかもしれません。

そこで角を立て、対立関係になってしまったら取り返しがつきません。

間違っても、いきなり内容証明郵便を送りつけるようなやり方はしない方が賢明です。

言葉は丁寧に柔らかく、立て替えた費用を提示し、なるべく公平な分割案を提案しましょう。

また、各相続人に手間を取らせないよう工夫することも大事です。

相手を納得させる

各相続人に連絡を試みる前に、まずは次のことを確認します。

  • 相続人の特定
  • 預貯金残高の照会
  • 立替金の合計金額(領収書に基づく)
  • 遺産分割後さらに費用の発生が見込まれる場合は見積の合計金額(見積書に基づく)

これらを踏まえ、分割案を考えます。

被相続人との親密度など、いろいろと主張したいものはあるかと思います。

しかし初回の提案であまりに主観的な提案をしたり、立替金を後出しにしたりしては、まとまるはずの話もまとまりません。

立替費用を除いて、原則、法定相続分の割合に従って分割するのが最も公平感があるのではないでしょうか。

それでも法定相続分だけでは納得できないなら、他の相続人を説得するためのの材料(書類等)を提示すべきです。

お膳立てをする

また、相続人のなかには被相続人とほとんど面識がなく、「面倒なことには関わりたくない。あなたたちで勝手にやって」と投げ出そうとする方もいるかもしれません。

繰り返しますが、相続人のうち非協力的な(ハンコを押してくれない)人が1人でもいると、預貯金は凍結されたままとなります。

なるべく手間を掛けさせないよう、書類はこちらで全て準備し、相手は署名押印するのみ、とここまでお膳立てをしたら早くまとまるかもしれません(印鑑証明書は各自で用意してもらう必要がありますが)。

遺産分割協議は時間が経てば経つほど難しくなる

これらはすべて、遺産分割協議を円滑に終わらせ、立替費用をなるべく早く回収するための方法です。

遺産が多額であれば、調停や審判まで持ち込むのがもっとも合理的である場合もあります。

いずれにせよ、遺産分割の棚上げ(=放置)で状況が悪化することはあっても、好転することはありません。

もともと疎遠だった親戚であれば、今後ますます疎遠になり、関係者も増えていきます。

相続人の1人が認知症になってしまえばさらに手続きが難航します。

早く決着をつけることが関係者全員にとって必ず良い結果となる、と信念をもって臨みましょう。