自分で書いた遺言書の保管について。

そもそも遺言書を書いておく方がいまだに多くありません。

遺される家族のことを考えて遺言を作成する方は、それだけを見ても尊敬すべき方だと私は思います。

ノートに記載された遺言

全文を自書するタイプの遺言(=自筆証書遺言)は、封をしなければならないわけではありません。

日付、署名、押印があれば、見開きノートに書いても有効です。

ある方から相談を受けた際に、そのような遺言書を拝見しました。

ノートの最初のページから、財産の状態、家族関係や生活費などがまとめられています。そしてそのノートの中間の1ページが、遺言書の形式を整えたものになっていたのです。

配偶者や子たちの特性や公平性を考え分割されるよう、細やかに配分方法が定められていました。

一読するだけで家族への優しい思いを感じることができます。

しかしこの遺言書が発見されたのは、なんと相続開始後30年を過ぎてからです。

30年前には既に遺産分割協議が行われ、法定相続人の1人が居住用の土地建物を相続していました。

発見された遺言書はどうなるのでしょうか?

遺産分割協議との関係

遺言書の内容が遺産分割協議の内容とかけ離れていたため、各相続人は、遺言書の内容を知っていれば判を押さなかった可能性が高かったようです。

ということは、今からでも「要素の錯誤」(平成5年12月16日最高裁判決)として遺産分割協議を覆すことができるかもしれません。

しかし…

30年経過しているということ

遺産分割から30年が経過しています。

遺産分割により不動産を取得した相続人は、登記を済ませ、そのままその不動産に入居し、現在まで住み続けているようです。

これを覆すとなれば大ごとです。訴訟に発展する可能性が高く、勝てる可能性が必ずしも高くない(取得時効を主張される等)。

なにより当時の法定相続人はもう散り散りとなってしまいました。認知症を発症している相続人や、次の相続が開始してしまった相続人もいます。

相続財産の額とを考え合わせると、「何もしないほうがまし」といえるような状況です。

自筆証書遺言は見つからなければ意味がない

せっかく家族の将来を思って書いたはずの遺言書ですが、その遺志がまったく考慮されることなく30年が経ってしまいました。

家族愛を感じさせる遺言だっただけに、もったいないと感じてしまいます。

自筆証書遺言は、誰かに存在を認められる必要があります。

死後、遺品整理のなかで発見されることも多いでしょうが、見つからずに捨てられていることもあるかもしれません。

自筆証書遺言を書くからには、せめて誰かにその存在を知らしめておくべきです(内容を知らせてはいけませんが)。

「あの部屋の引き出しに仕舞ってあるからね」だけでも十分でしょう。