自分の父親や母親に認知症の兆候が出てくると、とても不安な気持ちになりますよね。
今まで頼りにしてきただけに、これからどうなるのか…。
身の回りの世話を誰がやるのか、の問題もありますが、今まで父親または母親名義で管理していた預金や不動産などを誰が管理するのか、という問題も出てきます。
とりあえず放置した場合
心配しながらも、「また良くなるかもしれないから」と放っておいた場合。
もちろん良くなることもあるでしょう。でもそのうち判断能力の低下した状態が続き、正常な状態に回復するときがほとんどなくなってくる可能性もあります。
そのとき、家族が本人に代わって本人の預貯金を引き出したり、財産を処分したり、施設への入所契約を締結することはできません。
これは「本人のために善意で」であってもダメです。
そこまで症状が悪くなってしまった場合は、後見開始の申立てをする必要があります(法定後見)。
選任された後見人が本人に代わって財産を管理しますが、柔軟性はあまり期待できないかもしれません。
実質的に本人が望んでいるかもしれないと思われる支出でも、法定後見の場合は「一般の良識にしたがって誰もが納得できる支出 」でなければ認められないんです。
引用:成年後見人のためのQ&A
2 適正な支出とは,被後見人についての①生活費・医療費・施設費,②税金や社会保険料, ③家屋修繕費など財産の維持管理費,④負債返済費,⑤身上監護のための職務遂行費用(面 会に要する最低限の交通費など),⑥後見監督における資料収集費用(登記簿謄本の申請料 など),⑦被後見人に扶養義務のある配偶者や就学中の子らの必要生活費(同人らに収入の ある場合は,必要生活費の不足分のみ),などが考えられます。 しかしながら,上記内容であれば無制限に支出して良いというものではなく,被後見人の 生活水準を保ちつつも,限りある財産を有効に利用することが必要です。その判断にあたっ ては,一般の良識にしたがって誰もが納得できる支出であることが前提となります。
任意後見契約を結んだ場合
法定後見は、必ずしも本人の意思とは関係なく、後見人や後見人の権限が決められます。
では、より自由度の高い方法をとることはできるでしょうか。
本人と後見人の当事者同士が契約を結んでしまえば良いのです。そうすれば、ある程度自由に内容を決めることができます。
任意後見契約は、本人と任意後見人とで公正証書によって結びます。
契約なので、本人に契約を結ぶ能力が必要となるのですが、もし現状が「時間によって、普通だったり言動がおかしくなったりする」程度なら、まだ任意後見契約を結ぶための十分な能力があると考えていいでしょう。
任意後見の典型例
現在は十分な判断能力を有している人が、将来の判断能力の低下に備えて任意後見契約を締結するというのが、典型例と言えます。
契約を結んだあと実際に効力が生じるのは先の話ですので「将来型」ともいわれますが、いくつかの契約を合わせることで、連続性をもたせることができます。
任意後見契約と他の契約の併用
任意後見契約だけでなく、他の契約を付け加えることで、途中で途切れることなく財産を管理することができるようになります。
ご本人やご家族の安心にもつながるのではないでしょうか。
以下は、任意後見契約に際して3つの契約を付け加え、遺言書を作成した場合です。
①見守り契約発効(判断能力あり)
定期的に本人の安否、心身の状態や生活の状況の確認し、適切な時期に任意後見監督人の選任請求をします。
1人暮らしのご高齢者を対象とする場合は、特に必要性が高いと思います。
一般的には、月1回程度の電話、3か月に1回程度の訪問。
↓
②任意代理契約発効(判断能力あり、身体的不自由など)
まだ判断能力は十分でも、身体的な障害があって出歩くのに不安のあるような状態の方は、預金管理や契約などの法律行為を第三者にしてもらうための別の契約が必要となります。
任意後見契約が発効するまでのつなぎとして、このような契約を結んでおけば安心でしょう。
↓
③任意後見契約発効(判断能力が不十分)
家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立てを行うことにより、効力が生じます。
以後は契約内容にしたがって任意後見人が財産管理を代理することになります。
↓
④死後事務委任契約発効(本人の死亡)
死後事務委任契約は、本人の死亡直後の事務(葬儀、埋葬、料金支払いなど)を委任するものです。
契約内容は家族にとって気の滅入るもので、これだけを契約するのには抵抗があると思います。任意後見契約のタイミングで付け加えるのがいいのではないでしょうか。
↓
⑤遺言執行(〃)
遺言執行者の定めのある遺言書を作っておくことで、相続人感の争いを引き起こすことなく、また相続人に事務的な負担をかけることなく遺産の承継を行うことができます。
公正証書によって作成するのが望ましいと思いますので、任意後見契約とともに作るのが理想的ですね。