「株式会社つくろうと思うんだけど、登記費用が30万円くらいかかるらしい。何とか安くやる方法はないいものか。」
「知り合いの持ってる会社、もう何年も放置してて『もういらない』とか言ってたな。話ししてみようか?」
「おお!」
「とりあえず住所、目的、役員だけ変更したらそのまま使えるんじゃないの?」
「その手があったか!」
「会社閉めるのにも面倒な手続きが必要らしいから、Win-Winじゃない?」
「確かに!」
…いえ、素直に新規設立したほうが良いですよ、というお話。
”空き家”状態の株式会社
世に空き家が蔓延っています。
空き家の中でも何年も放置状態にあるものは、見た目は小綺麗でも内部の配管などが腐食・破損しているかもしれません。
また放置によって不審者・狐狸物の怪?が棲みついている可能性もあります。
このような空き家には、事前の調査なしにいきなり入居するのは危険ですよね。
何年も放置している「休眠会社」と呼ばれるものも、同じような特徴をもっています。
毎年の決算申告をしていない役員変更登記をしていない等、すべての手続きを放置している場合、会社の債権債務がどのような状態で、会社の譲り受け後にどのような請求を受ける可能性があるのかがまったく見えません。
税制上の優遇を受けられない、(簿外)債務の発覚、過料の制裁(これは旧代表者宛か)など、新規に会社を設立するよりも多くのリスクを引き継ぐことになりそうです。
こんな状態の会社を喜んで買い受けるのは、反社会的勢力くらいでしょうか…。
また、このような休眠会社は、実はもう解散させられているかもしれません。
平成27年1月に78,000社の休眠会社について「みなし解散」の登記がされました(日経)。
「みなし解散」とは、12年間まったく登記のされていない株式会社について公告と通知をしても反応がなかった場合、登記官が解散登記をしてしまうことです(会社法第472条)。
登記事項証明書を見て「解散」と書かれていたら卒倒してしまいそうですが、通知まで受けて無反応ならしょうがない気も…。
今後は毎年行っていくようです(法務省)。
みなし解散から復活できるか
勝手に解散登記をされた場合でも、その後3年以内であればもとに戻すことができます(会社法第473条)。
何年も放置して通知があっても無視したのに、そこから会社を継続したいなんていう人がいるかねーと思っていたところ、
平成27年は78,000社について「みなし解散」登記が行われた影響か、会社継続登記の件数が跳ね上がっています。
平年並みの会社継続登記の件数を引くと、ちょうど1,000件程が「みなし解散」にあわてて会社継続登記をしたような感じでしょうか。
「しまった、まだ営業してて従業員もたくさんいるのに、解散の登記がされた!急いで会社継続登記しないと!」
と焦る経営者たちが思い浮かび、ちょっとかわいいと思ってしまいました(笑)。
まあ「みなし解散」となってから焦るなら法務局からの通知を無視しなきゃいいのにね…
といっても焦って会社継続したのは78,000分の1,000なので、全体の1.2%に過ぎません。
大多数は完全に放置状態、かつ「みなし解散」も想定内だった会社がほとんどでしょう。
解散登記からの会社継続登記のコストですが、少なくとも次の登記申請及び登録免許税がかかります。
登録免許税 | |
清算人就任登記 | 9,000円 |
---|---|
会社継続登記 | 30,000円 |
役員選任登記 | 30,000円(10,000円) |
この他、会社形態によって取締役会設置会社の定め設定登記(30,000円)、監査役設置会社の定め設定登記、株式の譲渡制限に関する規定の変更登記(30,000円)などの登記が必要になることがあります。
司法書士に登記申請を依頼する場合は、報酬の支払いも必要となります。
会社を譲り受けるコスト
株式会社を譲り受けるというのは、株式を譲り受けることにほかなりません。
株式の贈与を受けるのか買い受けるのかの違いはあるものの、まずは株式の時価を把握する必要があります。
税理士や会計士に株価算定を依頼することもできますが、その費用だけで新規設立のコストを上回ってしまう気も…
算定された価格の株式譲渡契約をする際、場合によっては贈与税等の課税の対象となります。
さらに、通常は他の会社を譲り受けただけでは自分の思い通りの営業をすることはできません。
少なくとも次の登記事項を変更することになるでしょう。
登録免許税 | |
本店移転登記 | 30,000円 |
---|---|
目的変更登記 | 30,000円 |
役員変更登記 | 30,000円(10,000円) |
このように、会社の譲り受けは意外にも時間とコストを消費するものです。
上記のように目に見える費用はまだましで、怖いのは残存債務、簿外債務、課税、過料のリスクです。
新規に設立したほうが安全ですよ!