スマートコントラクト
スマートコントラクトは「プログラムできる契約」のこと。
必ずしもブロックチェーンとともにあるわけではありません。
スマートコントラクトの単純な例として自動販売機があげられますが,これはブロックチェーンとは関係ありません。
自動販売機は,お金を入れてボタンを押すことで,瞬時に契約を履行するしくみです。
注文どおりのジュースが引き渡されたかどうかは購入した人がチェックすることになります。
100円あまりのジュースならリスクも少ないので,このような単純なしくみで十分成り立っているということです。
しかし不動産は自動販売機で売買するのにはおそらく向いていません。
不動産の売買は,人・物・意思についてもっと注意深く確認しなければ,当事者に多大な損失を与えることになるからです。
したがってその確認は,当事者の本人確認は対面による身分証や印鑑証明書の提示,不動産の確認は権利証の提示,意思確認は契約書・実印・印鑑証明書・直接聞き取りなど厳格な方法で行っています。
しかしスマートコントラクトでは紙や印鑑は使わないので,不動産売買と登記をスマートコントラクトにより実行する場合,これらのものを置き換えることになります。
どのように置き換えるのかの実験例がありました。
スウェーデンのスマート不動産登記実証実験
スウェーデンでは,不動産登記の簡素化と安全性確保のため,スマートコントラクト化の実証実験を行っているようです。
安全対策のため,改ざんに強く透明性の高いブロックチェーン技術を使っています(種類は不明)。
ブロックチェーン提供事業者はChromaway社。
https://chromaway.com/landregistry/
”第2フェーズの実証実験が2017年3月完了した”とありますが続報が見当たりません。どうなったのでしょう。
上のリンクにあるデモ動画では,不動産の売主,買主,不動産仲介,売主の銀行,買主の銀行,登記官が参加しています。
ブロックチェーンはこの参加者のみが利用する閉鎖的ブロックチェーンです。
ブロックチェーンを使ったスマートコントラクトなので,意思表示の連続性と同時履行が保証され,契約の改ざんや二重支払いを防ぐことができます。
また,参加者の誰もが契約と実行の経緯を確認できるため,透明化を図ることができます。
デモ動画の流れ
Chromawayリンク先にもありますが,スマートコントラクトのデモ動画です。
Esplix from Chromaway from Info Chromaway on Vimeo.
デモ用に単純化したプログラムのようですが,おおよその流れがつかめます。
(英語はあまり聞き取れませんでしたが。)
冒頭はプログラムの概要説明で,実演は3:17~。
それぞれの参加者はあらかじめ本人認証用のアプリを携帯端末に入れていて,これで認証を行うようです。
PC操作画面には2つのフィールドがあり,本人確認用と意思表示用のフィールドに分かれています。
売主が参加
まず売主がログインし,公的IDを記述(=登記識別情報入力?)したうえで不動産を売りに出します。
このデモでは不動産登記だけでなく売買市場の機能も含んでいるようです。
不動産仲介が参加
売主が不動産仲介を招待し,不動産仲介がログイン。
不動産仲介は,日本でいう宅建業法の重要事項説明義務を果たすために参加するのだと思います。
買主が参加
不動産仲介が買主を招待し,買主がログイン。
売買成約
買主が入札(bid)。
売主が金額を受諾(accept)。
買主が代金支払いを約束(commit)。
売主指定銀行参加
売主が銀行を招待し,銀行がログイン。
この銀行は,売主の口座があるというだけでなく,おそらく住宅ローンの抵当権を設定している銀行を想定しているのでしょう。
銀行は住宅ローンの番号?を入力し,抵当権を特定します。
買主指定銀行参加
買主が銀行を招待し,銀行がログイン。
これも住宅ローンの融資と抵当権設定を行う銀行を想定しているようです。
決済
融資実行,売買代金支払い,住宅ローン完済を同時履行し,所有権が移転。
登記官が参加
参加者が登記官を招待,登記官がログイン。
登記完了
ここで買主や抵当権設定銀行は無事対抗力を得る…という流れです。
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このデモが実際よりも大幅に簡略化されたものなので,ログイン時の本人認証がどのように行われるのかが見えません。
マイナンバーのようなものと紐付けたIDを使ってログインするものと思われます。
このログイン方法は,おそらく厳重なセキュリティによって管理されているのでしょうが,デモでは具体的にわかりません。
この部分の信頼性が確保できれば,既存システムに取って代わることになるでしょう。
現行制度すなわち対面による本人確認も絶対ではありませんからね。
確実強固な新しい本人確認システムに期待したいです。
先進国と新興国の不動産登記
リンク先の「資料3-2」PDFが参考になります。
スウェーデンは先進国なので,すでに確立された不動産登記システムがあります。
したがって不動産登記へのスマートコントラクト導入の動機は「人的エラーを防ぐ,手続きを簡素化する,コストを削減する」というものです。
実証実験によって今後既存システムのコストや機能を上回ると判断されれば,本格的に導入されることになるでしょう。
しかし不動産登記がいまだ整備されていない,または不動産の大部分が登記されていない新興国では事情が変わります。
例えば,新興国では固定電話の普及を飛び越えて携帯電話が普及したようです。
各国の固定電話と携帯電話の普及率推移をグラフ化してみる(新興国編)(最新)
先進国と異なり固定電話用のケーブル敷設が行き届いていない新興国では,今から国内に電話ケーブルを敷設するより携帯電話の基地局を設置したほうが安上がりだったのかもしれません。
不動産登記も,自国政府に蔓延する汚職や縁故主義が壁となり浸透しなかったものが,スマートコントラクト導入によって短期間に浸透する可能性があります。
既存システムから移行することののメリット・デメリットを検証する必要がないのです。
携帯電話と同様,スマートコントラクトの普及はあっという間かもしれません。