不動産や財産について、「遺言書さえあれば」平穏に終わる、「遺言書さえあれば」簡単に済むことは数多くあります。
生前にそのことに気付く方はそれほど多くありません(皆さん気付いてはいるけど先延ばしにしてしまうのでしょうか)が、相続人のことを考えたらたいへんありがたい存在です。
では遺言書をどのように書きましょうか。
よく使われるのが「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」です。
イメージが湧きやすいのは自筆証書遺言でしょう。ただし司法書士などに相談した場合に勧められるのは公正証書遺言だと思います。
やはり「遺言書を書きたい」という方に、胸を張って自筆証書遺言を勧める法律家というのもどうかと思いますんでね…。相談者の事情にもよりますが、私も相談されたら公正証書遺言を推します。
でも公正証書遺言は手間とお金が少々かかるのは確かです。
自筆証書遺言なんか紙とペンと朱肉さえあれば一応書けますから、敷居が低い。
でも作成から実際に財産移転するまでの流れを考えると、自筆証書遺言の方が敷居が低いとは、必ずしも言えないんじゃないかな、と思います。
以下、時系列での比較です。
作成
自筆証書遺言
筆記用具で書くだけ。
1枚の紙のまま残しておいてもノートの任意のページに書いていても有効ですが、改ざん防止のためなるべく封緘しましょう。
ゴミだと思われては大変なので封筒の表には「遺言書」と、発見者に勝手に開けられては困りますので裏には「開けちゃダメ」「家庭裁判所で検認してね」などとかわいく書いておきましょう。
公正証書遺言
公証役場に出向いて(または公証人を呼んで)、遺言の内容を伝えます。
遺言者の印鑑証明書、相続人の戸籍や受遺者の住民票などが必要になります。費用も10万円以上かかると思います。
でもそれと引き換えに、効力や改ざんを不安に思うことなく過ごすことができるようになります。自筆証書遺言だと何があるかわかりませんからね…。
保管
自筆証書遺言
自分で保管するか他者に預けることになります。
自分で保管する場合は、せっかく書いたのに死後誰にも見つけられず、またはゴミ扱いされて捨てられては悲しいので、誰かに「あの引き出しに入れてあるよ」と伝えておくべきです。照れますが。
他者に預ける場合は、誰か信頼できる人を見つけないといけませんね。遺言書で指定した遺言執行者に預けるのもいいでしょう。ただし他者すぎて死亡の知らせも届かないような人だとちょっと…。近しい、信頼できる、しかも遺言内容に登場しない他者が理想でしょうか。いなかったら自分で保管しましょう。
公正証書遺言
公正証書の原本は公証役場に保管されています。
正本はおそらく遺言執行者または遺言者が保管することになると思います。
謄本を推定相続人が保管する例もあるようです。しかし内容によっては怖いですね。特に隠し子について遺言で認知している場合なんかは渡せるはずがありません。見られたらその場で死にます。
公正証書遺言の場合は効力や改ざんの心配はありませんが、関係者に内容を知られる恐れはありますので保管にはご注意。
相続開始後
自筆証書遺言
検認手続が必要です。
保管者または発見者が遺言者の戸籍全部、相続人全員の現在戸籍等を揃えて、家庭裁判所に検認申立書を提出しなければなりません。ここで揃えるべき書類は公正証書遺言の作成時よりも厳格で、結構多いです。
家庭裁判所から相続人全員に呼び出し通知がされ、期日に検認が行われます。
自筆証書遺言ではこの手続きを経ない限り、遺言書の内容に沿った遺産承継手続を行うことができません。
しかも、検認したからといってなお効力は定かでなく、記載方法によっては効力を認められないこともあります。書き方には気を付けましょう。
公正証書遺言
特に手続きを要しません。
遺言公正証書の正本または謄本と遺言者の死亡を証する戸籍謄本のセットにより、遺言執行者が手続きを進めることができます。
自筆証書遺言と公正証書遺言とを比べると、のこされた相続人の負担に大きな差があります。
トータルで考えると、公正証書遺言の方がメリットが大きいでしょう?