被相続人の甘さ
自宅などの不動産を所有している方でも、遺言書をのこして亡くなる方はいまだ少数です。
「不動産といっても大した額じゃないから」というお考えで書かないのかもしれません。
しかし意外と額に関係なく、相続人の間の争いは起こります。
「うちの子ども同士で争うとは思えない。適当に話をつけるだろう。」これも気持ちはよくわかりますが、まったく保証できるものではありません。悪い言い方をすると、火種を残して亡くなるも同然とさえ思います。
得てして性善説に基づいた計画は、かえって人間の負の部分をあらわにしてしまうようです。
遺言書のない相続も然り。お互い少しずつ譲りあえば簡単に決まるものですが、そうでない相続人が1人でもいたら、火が付きます。
やはり当事者以外の存在(配偶者など)が影響するようですね…
Aさんの相談
『兄夫婦は実家で暮らしています。私と妹は離れた町で暮らしています。
母の相続についての遺産分割協議が棚上げになっていたところ、兄から連絡がありました。
「母名義のままとなっている建物の名義を、全部おれに移したい。協力してくれるなら、母の預貯金からいくらか渡せる。」
いくらか?不動産も預貯金も3分の1ずつ権利があるのでは?と言い返したところ、
「おれはずっと母の世話をしてきた。寄与分がある。おまえたちは年に1回しか実家に戻ってこなかったじゃないか。いまさら相続分とか言うな」
とのご返答。
兄が世話をしていたといっても、母は施設にあずけられていたんですけどね。
でも寄与分と言われると認めざるを得ないのでしょうか。』
寄与分の考え方
寄与分は、基本的には相続人同士の話し合いで定めます。話し合いで定める限り、細かい要件など気にする必要はないでしょう。
しかし一方的に主張するのなら、それ相応の証明が必要となります。
民法902条の2では
共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは…相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
と定められています。
”特別の寄与”ですので、「同居していた」「親の世話をしていた」など漠然とした主張では認められにくいでしょう。
世話をしていたというのなら、それによって相続財産が維持されたといえるものでなくてはいけません。例えば…
兄が自ら療養看護をした場合は、それによって母の預貯金からの施設入所費や介護サービス費用の支出を免れたといえるか。
施設等に入所させていた場合は、兄が入所費用を支払い、母の預貯金からの支出を免れていたか。
このような場合は、仮に話し合いで決着が付かず、家庭裁判所の審判を仰ぐことになったとしても、寄与分としてある程度考慮される可能性が高いです。
しかし逆に、施設に入所させ、費用も母の預貯金から支払われていたのなら、何ら「特別の寄与」に当たるものはないと言わざるを得ません。
また、例にあげたような特別の寄与があったとしても、母名義の実家に住んで家賃相当額の支払をしていなかった(=タダで住んでいた)としたら、特別の寄与の対価をすでに受け取っているとみなされるかもしれません。また、家賃に相当する利益の供与を受けたことを考慮して、やはり寄与分が認められないとされる可能性が高くなります。
要するに、寄与分が話し合いで決着が付かない場合は、突っ込みどころがいろいろと出てくるわけです。
協議を拒む相続人に対して
強引な主張をする相続人に困っているときも、できるだけ皆の意見に耳を傾けるよう粘り強く説得するべきです。
それでもどうにもならなければ、調停及び審判手続によりいっきに決着を付けてしまいたいところです。
遺産分割は時間を追うごとに困難となっていきます。そのうちに相続人が認知症を発症したり次の相続が開始されると、解決がさらに難しくなってしまいます。相続人全員が健在であるうちに終わらせてしまいましょう。