要らない不動産
不動産は資産です。
固定資産評価額などでマイナスの評価となることはありません。
しかし不動産は、評価額の多寡にかかわらず維持管理等のコストが発生するものです。
財産的価値の低い土地について多額の維持管理コストがかかるなら、そんな不動産、誰もが手放したいと思うことでしょう。
でも、手放すことができるでしょうか。
すでに不動産が自分の名義になっているなら、売るか贈与する必要があります。
しかし財産的価値を失っているならタダでも貰ってくれる人はいそうにありません。(単独名義でなく共有持分なら「持分放棄」という単独行為を選択できますが、現実的にはやはり貰い受ける人の協力が必要です。)
そのような不良物件とは、なるべく関わり合いにならないようにしたいものです。
相続財産の中に崖地
「相続放棄」は、相続人の人生の平穏を保つためのとても有効な手段になり得ます。
亡くなった方の債務を調査し、「債務超過であれば相続放棄」というのが典型的な使われ方だと思います。
しかしもうひとつ、保有不動産の状況を調べておきましょう。納税通知書や権利証等で不動産の所在はつかめると思います(他に心当たりがあれば名寄帳を取り寄せる)。
例えば相続財産の中に危険ながけ地が含まれている場合。何かあったときの損害賠償責任や保全義務を負わされる可能性があります。ほとんど財産的価値がなかったとしてもです。
相続財産には他に多額の預貯金があるなら、特定の相続人がすべての遺産を相続してバランスを取ることも可能でしょう。
決して「預貯金だけもらって土地は他の相続人に」などと都合の良い結論は用意しないように…こじれるだけです。
また「全部もらって土地は国や自治体に寄付」も無理です。国や自治体が自ら欲している場合(公共事業など)でなければ受取らないと思います。金ばかりかかる不良物件なんてもらっても納税者に怒られます。
もし相続財産が評価額の低いがけ地だけなら…逃れる手段は相続放棄のみ(3か月以内!)。
所有権放棄の可能性
「所有権の放棄」を認めた法律は(今のところ)ありません。
無いからといって認めていないことにはなりませんが、所有権の放棄に関する手続も定められておらず、所有権の放棄を認めた判例もありません。
上記のような「負担逃れのための所有権放棄」は権利の濫用として認められなかった下級審判例はあるようです。
最近は、所有者不明土地(=所有者の所在の把握が難しい土地)が公共事業のための用地買収の妨げとなっていることから、土地売買登記の効力要件化/相続登記の義務化/所有権放棄の可否等が議論されているようです(https://mainichi.jp/articles/20170929/dde/001/040/071000c)。
まあこれはあくまで公共事業の妨げとなっている場合であり、それだけ国や自治体にとって有用な土地の話です。単に土地所有者の負担回避のみを目的とする所有権放棄は今後も認められることはない、ということですね。